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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)10355号 判決

原告 日本労働組合総評議会全国金属労働組合東京地方本部プリンス自動車工業支部

被告 東京労働金庫 外一名

主文

一  原告が、被告東京労働金庫に対し、別紙預金債権一覧表記載の預金債権を有することを確認する。

二  被告東京労働金庫は、原告に対し、金四、〇七八万四、四一四円を支払え。

三  訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

第一当事者らの求めた裁判

(原告)

主文第一ないし第三項と同旨の判決ならびに第二項につき仮執行の宣言

(被告金庫)

原告の請求を棄却する。

との判決

(被告組合)

原告の請求を棄却する。

との判決

第二当事者らの事実上、法律上の陳述

(原告の請求原因)

一  被告金庫には、昭和四五年八月一〇日(本件口頭弁論終結の日)現在別紙預金債権一覧表記載の預金が存在する。

二  右預金の債権者は原告組合である。すなわち

(一) プリンス自動車工業株式会社(以下「プリンス」または「会社」という。)は、昭和四一年八月一日付で日産自動車株式会社(以下「日産」という。)に吸収合併されたが、プリンスの従業員であつて日本労働組合総評議会全国金属労働組合(以下「全金」という。)に所属する組合員をもつて組織する全金東京地方本部プリンス自動車工業支部なる名称の労働組合(以下「支部組合」ともいう。)が存在し、昭和四〇年一〇月二一日の組合大会において中央執行委員長永井博ほかの役員を選任していたが、本件預金は、いずれも右支部組合が被告金庫に対して預け入れた元金およびその利息である。

(二) ところが、同年一二月二二日の支部組合の臨時組合大会において、中央執行委員(以下「中執」ともいう。)全員の不信任決議がなされた後、昭和四一年二月二三日中央委員の三分の一以上の者から永井委員長に対し、支部組合規約上根拠のない執行部代行なるものを選任するための臨時組合大会開催の決定を目的とする中央委員会の召集請求があつた。しかし、同委員長が、このような規約違反の事項を決議するための大会召集は許されず、ひいて違法な大会開催を決定する中央委員会の召集も許されないとして、右中央委員会の召集請求を正当に拒否したところ、中央委員の有志が、中央委員会の名のもとに、同月二四日私的に会合して臨時組合大会の開催を決定し、さらに、同月二八日臨時組合大会と称する集会を召集開催し、ここにおいて、支部組合員の一部が支部組合とは別個に第二組合を結成するにいたつた。この第二組合は、「プリンス自動車工業労働組合」なる名称を用い、その後、プリンスと日産の合併後、名称を「日産自動車プリンス部門労働組合」と改めたが、この組合が被告組合にほかならない。

(三) このような第二組合の発生により、支部組合の組織および運営に一時的な混乱を生じたが、永井委員長以下中執の過半数を占める六名は支部組合に留まり、同年三月三日組合事務所を上部団体である全金の事務所に移転し、同年四月三日全金プリンス自工支部組織強化確立準備大会を開いて一五二名の組合員の意思確認を行ない、同月一〇日組織強化確立臨時全員大会を開いて暫定運営規定、暫定予算等を決議するとともに役員の改選を行ない、支部組合は同一性を失うことなく、原告組合として活動を続けている。したがつて、支部組合と同一性を有する原告組合が本件預金の債権者である。

(被告金庫の答弁)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二の事実はすべて不知。被告金庫としては、本訴訟において債権者であることが確認された組合に対して本件預金の支払をするものである。

(被告組合の答弁および主張)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二のうち(一)の事実は認めるが、その余はすべて争う。

本件預金の債権者は、被告組合である。すなわち、

(一) 昭和四〇年五月末プリンスと日産の合併計画発表後、支部組合では、合併後の組合員の権利擁護および日産の従業員をもつて組織する全日産自動車労働組合(以下「日産労組」という。)との交流による意見の調整という二方向の運動方針を確立したが、当時の支部組合の中執らは、合併反対の立場から、組合員の総意を無視し、プリンスの使用者側と合併後の労働条件等について具体的交渉を行なわず、日産労組との交流についても、意見の根本的喰違いから、日産労組側より現執行部には交流の基盤がないと決めつけられた。そのため、同年一二月二二日の支部組合大会において、中執全員に対し不信任決議がなされるとともに中央執行委員会は爾後すべての業務の執行について中央委員会の事前の承認を得ることが確認事項として決議されるにいたつた。

(二) ところが、中執らは、右大会決議にもかかわらず、中央委員会の意見を無視して上部団体である全金に盲従し、昭和四一年二月二三日中央委員の三分の一以上の者から永井委員長に対しなされた中央委員会召集の請求に対しても、同委員長はなんら理由なくこれを拒絶した。そこで、支部組合は、翌二四日開催された中央委員会(永井委員長、大野事務局長を除くその他の中執および中央委員四三名出席)において、緊急動議により、中執の解任と臨時執行部代行者の選任を目的とする組合大会の開催を決定し、同月二八日中央委員会が臨時組合大会を召集し、同大会において、中執全員の解任と執行部代行者の選任を行い、その後、同年三月二四日実施の選挙により新たに永瀬忠男ほか一〇名の中執を選出し、同月三〇日の臨時組合大会において、役員を選任するとともに、全金よりの脱退、組合規約および組合名称の変更(「プリンス自動車工業労働組合」)を圧倒的多数で決議した。そして、同年八月一日プリンスと日産の合併後、さらに「日産自動車プリンス部門労働組合」と名称を変更した。

(三) 右中央委員会の開催、中央委員会による組合大会の召集および執行部代行者選任の各手続は、規約上根拠のないものであるが、中執らが昭和四〇年一二月二二日の大会決議を無視し、委員長において適法な中央委員会および組合大会の召集請求を恣意的に拒否し、支部組合の民主的運営を踏みにじるという急迫な異常事態に直面し、中執の不公正な侵害を排除するための緊急措置としてとられたものである。したがつて、右手続はすべて支部組合のそれとして行なわれたものであり、原告組合に所属するとされている組合員中、一一名が前記中央執行委員選挙に立候補し、また、一四一名がその投票をしている事実からしても、支部組合とは別個の第二組合が存在し、その第二組合の手続として行なわれたものでないことは明白であり、被告組合は支部組合と同一性を有するものである。

三  被告組合は、日産とプリンスとの合併後日産労組との統合を決意し、昭和四二年五月一三日両組合の統合に関する代議員大会を同年六月三日開催する旨および同月二日職場別全員大会において全組合員に統合についての賛否を問う旨を公示し、同月二日職場別全員大会において統合につき全員の賛成を得、かつ、統合の方式等については代議員大会の決議に従う旨の賛成を得た。そして、同月三日開催の代議員大会において、「(1)両組合統合の日を昭和四二年六月八日とする。(2)統合後の組織運営は日産労組の綱領、規約にもとづいて行なう。(3)諸活動は日本自動車産業労働組合連合会、日産労組の運動方針に従つて行なう。(4)統合後の財政は一本化する。(5)荻窪、三鷹、村山に支部を置く。」との決議がなされ、日産労組においても同月八日同趣旨の決議を行ない、同日両組合代議員による臨時大会を開催して両組合の統合を確認し、以上の手続により、被告組合は、日産労組と合同(吸収合併)し、日産労組は、被告組合の権利義務の一切を包括的に承継し、それに伴い本訴訟の被告の地位も当然に承継した。

(被告組合の主張に対する原告の反論)

一  昭和四〇年一二月二二日の支部組合大会における中執不信任決議は、従来の支部組合における慣行であり、この種決議の際の原則ともいうべき無記名投票によらず、挙手採決によつて行なわれたものであるから無効である。

二  労働組合が合併を有効になし得るかについては問題があるが、仮にこれを肯定するとしても、従来の組合の解散という事態を招致するものであるから、合併が有効に成立するためには、労働組合法第一〇条第二号所定の解散決議と同じ要件を具備した合併決議を要すべきものである。しかるに、被告組合は、議決機関ではない職場大会で組合員全員の賛成を得、代議員大会において合併決議をしているにすぎないから、日産労組との合併は無効である。

したがつて、被告組合の各組合員は、右職場大会において被告組合を脱退して日産労組に加入する旨の意思形成を行ない、昭和四二年六月三日の代議員大会の決議によりこれが実現したのであつて、それと同時に被告組合は、組合員の全員脱退により消滅したものである。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  まず、日産労組が被告組合の本訴訟における被告の地位を当然承継したものかどうかについて判断する。

被告組合は、日産労組が昭和四二年六月八日の決議により被告組合を合同(吸収合併)しその権利義務の一切を包括的に承継したと主張するが、会社の合併の場合におけるような包括承継に関する特別規定が存しないのに、労働組合の組合活動の主体としての側面のみならず、その財産関係についても被合同組合から存続組合への一切の権利義務の包括的当然承継という効果を生ぜしめる意味での労働組合の合同なるものを肯定することは疑問であるばかりでなく、仮にこれを肯定するとしても、合同の結果として被合同組合の実質上の解散を招致することは明らかであるから、合同が有効に成立するためには、少くとも、被合同組合において、労働組合法第一〇条第二号および組合規約に則つた解散決議と同じ要件に従つて合同の決議をすることを要するものと解するを相当とする。

ところで、証人石塚允彦の証言により成立を認める乙第二号証、同第二三号証の一ないし三および同証人の証言を総合すると、被告組合では、昭和四二年六月二日荻窪、三鷹、村山の三支部において、それぞれ各職場ごとに職場委員長が主催して日産労組との組織統合に関する職場大会を開催し、挙手採決の方法により統合の賛否を問うたところ、各職場とも出席者全員がこれに賛成し、さらに、翌三日被告組合は臨時大会を開催し、同大会において、「(1)統合の期日は昭和四二年六月八日とする。(2)統合後の組織運営は、日産労組の綱領、規約にもとづいて行なう。(3)諸活動は、日本自動車産業労働組合連合会ならびに日産労組の運動方針に従つて行なう。(4)統合後の財政は一本化する。」との条件で被告組合が日産労組に統合する旨の執行部提案が、議長の一存で挙手採決の方法により出席代議員全員(議長を除く。)の賛成を得て可決されたことが認められ、右認定を覆えし得る証拠はない。しかし、成立に争いのない甲第一号証によると、被告組合の規約第一七条は、「議会は、最高の議決機関であつて、細部は次のとおりとする。一、総会は支部毎の組合員全員大会であつて、定期総会は組合役員の任期中少くとも毎年一回組合長が一週間前に公示してこれを召集する。二、臨時総会は必要に応じ組合長が召集する。三、総会は全支部を通算して組合員総数の三分の二以上の参加で成立する。四、総会は予め提案された議事について開かれ、次項に関する議決方法は組合役員を含んで全員の直接無記名投票による。但し、解散の場合を除き、在籍組合員の過半数の賛成で決め、可否同数の場合は、他の機関で再審議した上で更めて総会にかける。五、次の事項の審議は、全員の直接無記名投票によつてかえることができる。(三)組合の解散。直接無記名投票は、組合員総数の三分の二以上の投票で成立し、その過半数の賛成をもつて議決とする。但し、解散の場合は組合員総数の四分の三以上の賛成をもつて議決する。(一部省略)」と、同第一八条は、「大会は、総会に次ぐ議決機関であつて、細部は次のとおりとする。一、定期大会は、原則として隔年一〇月に、組合長が一週間前に公示してこれを召集する。二、臨時大会は必要に応じ組合長が召集する。三、大会は、別に定める選挙細則により組合員数にもとづいて選ばれた大会代議員の三分の二以上の出席で成立し、議長以下の大会役員は、常任委員の他その都度大会で選出された者により構成する。四、定期大会は次の事項を審議する。(一)常任委員会の一般報告、(二)運動方針、(三)会計報告、(四)組合長、副組合長および書記長の選挙、(五)従業員以外の者の組合加入、(六)制裁を受けた組合員の抗告、(七)その他重要事項(一部省略)」と、同第二三条は、「各職場に職場組織をおく。職場組織については別に定める。職場組織は各職場で組合意思の執行に当るが、常任委員会の諮問に応じて職場の意思を常任委員会に反映し、また代議員会の決定により職場毎の意思を代議員会、大会または総会の討議資料にする。右の外自主的に職場の意思を上部機関に反映することもできるし、また機関の決定にもとづき具体的事項につき定められた範囲で組合を代表することもできる。(一部省略)」とそれぞれ規定し、右第二三条にもとづく職場組織細則第一条は、「規約第二三条により職場組織として職場大会、職場委員会を設ける。(一部省略)」と、同第二条は、「職場大会は、職場の意見集約機関で、細部は次のとおりとする。職場大会は職場毎の組合員全員の大会であつて、三分の二以上の出席者を以つて成立し、必要に応じ職場委員長が召集する。また、職場の組合員三分の一以上の要求があつた場合は職場委員長は職場大会を開かねばならない。職場大会の意思決定は出席者の納得により全員に近い同意を得て決定することが望ましいが、止むを得ざる場合には出席者の過半数の同意によつて決定することができる。(一部省略)」と規定し、選挙細則第五条は、「代議員の選挙は次の基準に依つて各選挙区毎の組合員中より組合員の直接無記名投票によつて選ぶ。一、代議員は、原則として一定期日の組合員一〇〇名につき一名とし、五一名以上の端数を生じたときは一名を増す。但し一区内の組合員が一〇〇名に満たない時は代議員一名とする。二、選挙区は原則として課をもつて一区とするが、五〇名以下の課は他の課と合併して一区とする。(一部省略)」とそれぞれ規定していることが認められ、右各規定に照らせば、被告組合において日産労組との合同を決定した前記手続は、正規の議決機関ではなく、職場の意見集約機関としての性格を有する職場組織にすぎない職場大会で組合員の意見を集約し、代議員により構成される大会において議長の一存で挙手採決の方法により決議したものであつて、組合員の総数の三分の二以上の参加で成立する意思決定機関である総会の決議でない点および直接無記名投票の方法によつていない点において右決議は規約上定められた解散決議の要件を具備しないものであることは明らかであり、合同決議としての効力を肯認することはできないものといわざるを得ない。

したがつて、いずれにしても、日産労組は被告組合の権利義務の一切を包括承継したものとは認め難いから、本訴訟における被告の地位を当然に承継すべきいわれはなく、被告組合は依然として本訴訟の被告たる地位を有するものというべきである。

なお、前記昭和四二年六月三日の大会決議により組合員各人の脱退意思が実現し、それと同時に組合員の全員脱退により被告組合は消滅したとの原告主張は、前認定の事実に照らし、その前提においてすでに採用し難い。

二  次に、本件預金債権の帰属について判断する。

(一)  昭和四五年八月一〇日(本件口頭弁論終結の日)現在において、被告金庫に別紙預金債権一覧表記載の預金が存在すること、右預金は、日産に吸収合併前のプリンスの従業員であつて全金に所属する組合員をもつて組織する全金東京地方本部プリンス自動車工業支部なる名称の労働組合が被告金庫に対して預け入れた元金およびその利息であることは、原告と被告組合との間においては争いがなく、原告と被告金庫との間においては本件口頭弁論の全趣旨によりこれを認めることができる。

(二)  そこで、原告組合または被告組合のいずれが右支部組合と同一性を有する組合であるかについて検討する。

いずれも成立に争いのない甲第二号証、乙第九号証の一ないし四、末尾二行の部分以外の部分の成立に争いのない乙第二七号証、いずれも、原告と被告組合との間においては成立に争いがなく、原告と被告金庫との間においては原告代表者大野秀雄尋問の結果により成立を認める甲第三、四号証、同第一二、一三号証、同第一六、一七号証、同第六二ないし第六五号証、同第六七号証、いずれも、原告と被告組合との間においては成立に争いがなく、原告と被告金庫との間においては証人石岡勝喜の証言により成立を認める甲第一四、一五号証、同第二三号証、同第二七号証、いずれも、原告と被告組合との間においては成立に争いがなく、原告と被告金庫との間においては本件口頭弁論の全趣旨により成立を認める甲第二二号証、同第三六号証、原告と被告金庫との間においては成立に争いがなく、原告と被告組合との間においては、郵便官署作成部分の成立に争いがなく、原告代表者大野秀雄尋問の結果によりその余の部分の成立を認める甲第一九号証、いずれも原告代表者大野秀雄尋問の結果により成立を認める甲第七ないし第一一号証、同第一八号証、同第二四、二五号証、同第三三号証、同第三七号証、同第四〇ないし第四五号証、同第四八ないし第五一号証、同第六六号証、いずれも証人石岡勝喜の証言により成立を認める乙第三ないし第五号証、同第一一号証の一、二、いずれも本件口頭弁論の全趣旨により成立を認める乙第一〇号証の一ないし三、同第一四号証、同第一六号証の一、証人石岡勝喜の証言、原告代表者大野秀雄尋問の結果(いずれも後記採用しない部分を除く。)を総合すると、次の諸事実が認められる。

1  昭和四〇年五月三一日プリンスと日産との合併計画が発表されたので、支部組合は、同年六月一日緊急中央執行委員会を開催して今後の対策を協議し、同委員会において合併問題討議資料(第一号)を作成した。その内容は、支部組合は、右合併の本質を資本家の産業合理化の一環であつて寡占体制への再編成として仕組まれたものであると規定し、合併による労働者への犠牲については絶対に反対することを基本方針とし、(1)労働条件の引下げを行なわないこと、犠牲者を出さないこと、従来の労働慣行を尊重すること、(2)航空、繊維部門の扱いが明確にされていないが、いかなる場合でも労働条件の引下げや犠牲を出さないこと、(3)組合員が培つてきた研究、技術等については十分尊重し、その発展をはからせること、(4)プリンス関連企業に対する犠牲は行なわせないようにすること、(5)上部団体、関連企業、労組等との密接な連携の上にプリンス独自の対応態度をとること、(6)日産労組との交流の中で労働条件その他を調査し、合併問題に共に対処すること、などを合併問題に臨む当面の態度とするというものであつた。この討議資料は、同月二日中央委員会で承認を得て全組合員に配布され、各職場で職場討議がなされたうえ、同月九日中央委員会でその結果が集約され全組合員の賛成を得た。その後中執らは、他の合併企業の実情調査をするとともに、日産労組の加盟している日本自動車労働組合連合会(以下「自動車労連」という。)の塩路会長および日産労組の幹部と意見の交流を重ねたが、支部組合側は、合併の指導権は経営者側にあるとし、両組合の組織問題については双方の労働条件に関する情報を交換し、日常の共同の具体的活動を通じて相互理解を深めるなかで検討し解決すべきであると主張し、日産労組側は、合併は資本家側だけからの要請ではなく、自動車産業発展のために組合が率先して合併成功のために努力すべきであるとし、支部組合が同じ考え方に立ち全金から離脱して自動車労連に加盟するという方向で交流を進めたいと主張し、合併に対する両者の態度は根本的な点で喰い違つていた。

2  支部組合は、同年八月一八日から九月一五日にかけて中央執行委員(一一名)、中央委員(四五名)等の改選を相次いで行なつたが、中執は一名を除き全員再選され、新執行部も合併問題については従来の基本方針を踏襲し、同年一〇月二一日開催の第四回定期大会において出席者(有資格代議員四〇二名中三七四名出席)全員の一致により確認された執行部提案の一九六六年度運動方針(案)においても、合併は資本の側からの問題提起で産業合理化の一環であるとし、「(1)労働条件の引下げを行なわないこと。(2)犠牲者を出さないこと。(3)従来の労使慣行を尊重すること。(4)航空、繊維部門の扱いについて、いかなる場合にあつても労働条件の引下げや犠牲者を出さないこと。(5)自販をはじめプリンス関連企業等においても犠牲者や労働条件の引下げを行なわないこと。(6)合併に伴う転勤、異動については組合との協議決定までは実施しないこと。」の六項目を基本的態度とし、当面の具体的対処の方法として、合併対策特別委員会の設置、日産労組との定期的交流会による意見の交換、合併問題特集号の発行を掲げた。これに対して日産労組側は、支部組合が自動車労連加盟の方針や指向の方針を具体的に決定しないことについて支部組合の執行部に対する批判を強め、右大会に招待された塩路自動車労連会長は、挨拶の中で、「支部組合執行部の考え方と無責任な指導性について反省を求めたい。執行部が話合に積極性を欠き運動方針書についてはよく討議し合うという約束を無視して基本的に全く異つた運動方針書を作成し、全金路線に従い、プリンスの労働者のために合併問題を真面目に解決して行こうとする努力がみられないことは非常に残念である。」と支部組合中執を激しく非難攻繋し、同年一一月一三日支部組合の中央委員会に出席した日産労組役員も「現在の支部組合執行部には交流の基盤がない。」とまで言明するにいたつた。

3  同年一二月八日および九日の両日日産労組の定期大会が開催され、同大会において、合併問題に関し、支部組合執行部が、全金路線をますます強め、前記支部組合定期大会で日産労組の考え方や活動と逆行する運動方針を強硬な態度で決定したことに対し不信の念を抱かざるを得ないとして、「あらゆる機会をとらえ職場役員をはじめとする各種の交流を行ない、職場の仲間と友好関係を深めていく。」「過去六ケ月以上も誠意をもつて進めてきたわれわれの努力にもかかわらず、心あるプリンスの組合員の期待を踏みにじつている現執行部の言動を見逃すわけにはいかない。」との塩路自動車労連会長の提案を日産労組の当面の方針として確認し、双方の組合機関相互の正規の交流を期待しない態度を明確にした。なお、この大会に傍聴招請を受けた支部組合は、約六〇名(中執、中央委員、青年婦人部四役)を出席させたが、これとは別個に執行部の関知しない約二〇〇名の一般組合員が個人の資格で傍聴に参加した。

これより前、支部組合の中央執行委員会は、前記一〇月二一日の定期大会後中央委員、代議員、組合員中の班長ら一部の者が、係長会を通じ、あるいは職場有志という形で旅館などで日産労組員と私的に会合をしたり、日産の工場見学を行ない、その際日産労組の幹部から全金脱退を強く要請された等の情報から、支部組合と日産労組の合併問題に対する見解の相違、日産労組との交流経過、日産労組および自動車労連の組織状況、日産およびプリンスの労働諸条件の内容などについての報告とともに、日産労組および自動車労連との交流は機関を通じて行ない分派活動と見られるような動きは一切しないとの職場決議を全組合員で確認することを訴えた合併問題討議資料(第三号)を作成し、全組合員に配布すべく同年一二月六日開催の中央委員会の討議に付したが、実質的審議はなされず、日産労組との交流がなされていない等合併問題に対処する中執の姿勢に対する批判的な質問に終始し、遂に右資料配布について同委員会の承認を得ることができなかつたということもあつた。

4  支部組合中央執行委員会は、このように、組合員の中に機関を通じないで日産労組員と交流する者が現われ、中央委員会の運営も円滑を欠き、日産労組からも交流を拒否されたことは、中央委員はじめ組合員に支持されていないためであり、組合員全員に支持される執行部を選出する必要があるとして、同月一三日の中央執行委員会において総辞職の決意を固め、翌一四日の中央委員会に提案し、「プリンス労働者の生活と権利を守る立場から統一と団結が何よりも大切であると考えてきたが、日産側の働きかけによる現状の職場の混乱はプリンスの立場を不利にする。そこで、中執はこの混乱を収拾することが当面の緊急課題と考え、総辞職を決意した。早急に強力な新執行部を選出して合併問題に対処するよう切望する。」旨提案理由を説明しその承認を求めた。しかし、中央委員会における討議の結果、今までとつてきた方針は正しいといつて総辞職する中執の態度は納得できないとの意見が大勢を占め、総辞職提案は否決され、かえつて、村山分会の山崎中央委員から、現執行部は合併問題に対処していく能力がないから不信任討議のための大会を開催すべきであるとの動議が提出され、賛成三七、反対二、保留一でこれが可決され、同月二一日に臨時大会を開催することが決定された。

5  ところが、同月二〇日全金本部から支部組合委員長宛に、不当労働行為排除に関する事案討議と支部組合員の労働条件等確保のための団体交渉を行い、右討議、交渉の終るまで臨時大会を延期せよとの緊急指示があつたことと、その頃、大会に備えた職場討議の中で、中央委員が、不信任決議は挙手採決の方法で行ない、可決後中央執行委員会の権限を剥奪して中央委員会がこれを代行するとの申合せをしたことが確認されたため、中央執行委員会は、同日午後九時三〇分頃急拠臨時大会の一時延期を決め、翌二一日朝委員長声明を配布するとともに、中央委員選出区毎に設置された組合掲示板に告示を出して組合員に徹底をはかつた。しかし、同日大会々場である会社村山工場第二食堂には多数の代議員が集合し、中央委員を中心として大会の延期に強い不満を表明し、しかも、永井委員長が前日盲腸炎のため入院するという不測の事態も発生し、混乱した事態となつたので、支部組合規約上(第四五条)委員長事故あるとき職務代行権限を有する大野事務局長は、事態収拾のため、同日午後三時から中央委員会を開き、結局同中央委員会において翌二二日臨時大会を開催することを決定した。

6  同月二二日の臨時大会においては、召集代議員四〇二名中三七一名が出席し、山崎中央委員から中執全員に対する不信任決議案が動議として提出され、支部組合規約第四〇条(「議事の決定は原則として挙手または無記名投票による。」)により賛成多数で挙手採決の方法によることを決定し、採決の結果賛成三六八、反対一、保留二で右不信任決議案が可決された。その後で、北田代議員から、今後の執行機関の業務について新執行部ができるまで中央委員会が代行するとの緊急動議が提案されたが、支部組合規約によれば、役員(中央執行委員長、事務局長、財務局長、中央執行委員など)が総辞職した場合、総辞職した役員は後任役員が選出されるまで業務を執行しなければならないものと定められており(第四七条)、その趣旨からいつて議決機関である中央委員会が組合業務を執行することは規約上問題があるとの消極的意見もあつて、右動議は撤回され、その代案として、不信任された執行部は、「管理中執として今後のことはすべて中央委員会、常任委員会等で事前に確認をとる。」ことが大会確認事項として決議された。

7  ところが、同月二一日支部組合役員全員が村山工場へ出向いている間に、全金東京地方本部の佐竹委員長が荻窪工場内にある支部組合事務所へ来て、永井委員長から依頼されたということで(この点は、後日石岡中央委員らが調査したけれども永井委員長は関知しないことで、真相は不明であつた。)、支部組合の預金通帳、印鑑等を本部において保管するといつて持ち出した事件(なお、これらは大野事務局長の申し入れにより同月二五日支部組合に返還された。)や、その頃一方的に全金のビラがプリンス構内で配布されたことなどを契機として、中央委員の全金本部に対する不信感は、一層強まり、同月二四日開催された中央委員会において、上部団体(全金本部および東京地方本部)といえども支部組合事務所を含むプリンス構内への立入りを原則として拒否することを決定し、翌二五日事務折衝の席上その旨を組合から会社側に要望事項として申し入れた。また、年間給与協定とか組合員に対する見舞金支払などの諸案件について中央委員会が開催される都度、中執が全金東京地方本部の会合に出席することを認めないとか、全金発行のビラ配布を排除するなどの動議を次々と提案可決し、中央執行委員会の発行する支部組合の機関紙「全金プリンス」とは別個に、全金プリンス自工支部中央委員会あるいはプリンス自工労組中央委員会の発行名義で「プリンス労組速報」を発行配布し、日産労組との交流経過報告や合併問題に否定的ないし消極的な中執および全金本部に対する非難攻撃を繰り返した。

中央執行委員会としては、不信任決議がなされた以上、早急に新しい中執の選挙をすべきであると再三主張していたが、中央委員会が一向に選挙問題を取り上げなかつたので、昭和四一年二月九日日産労組との交流費用に関する補正予算審議のための中央委員会において、「(1)現在の中央執行委員会としては、不信任された上に立つても、選挙管理内閣として選挙日程をはつきりさせなければならない責任と新役員就任までの間突発的な問題や懸案事項の解決をしなければならない責任を負わされている。(2)中央委員会として選挙日程をどのように考えているのか。もしこれ以上はつきりさせないとするならば、その理由を全組合員に報告すべきではないか。(3)最近の中央委員会の動向をみると、自分達が提案、討議、決定し、執行している状態が顕著に現われているが、いつから提案権、執行権を持つようになつたのか。」などの諸点について中央委員会の見解を求める提案をしたが、結局選挙の実施については明確にされないままで終り、同時に中央執行委員会が作成した右中央委員会における検討結果についての討議資料を組合員に配布することも否決された。

8  同月二三日全中央委員の三分の一以上にあたる三四名のものから、永井委員長に対し、書面をもつて翌二四日に中央委員会を開催するよう請求があつた。その議題とされた事項は書面上明らかではなかつたが、同月一九日に全金本部および東京地方本部から会社を相手方として右各組合の代表者らが支部組合事務所に立入ることの妨害禁止を求める仮処分申請がなされた事情および同月二二日鈴木中執が中央委員会の承認なく前記討議資料を配布したことについて中央執行委員会に確かめるという二点であつた。

支部組合規約によると、中央委員会は次級決議機関であつて、中執(発言権はあるが議決権はない。)および選挙規定により各課を選出区とし原則として組合員二〇〇名に一名の割合で選出される中央委員をもつて構成され(第二三条、第二四条)、中央執行委員長が毎月一回定期に召集するが、そのほか中央執行委員会が必要と認めたとき、または中央委員の三分の一以上の請求があつたときは臨時に召集しなければならず(第二五条)、緊急の場合を除き、開催の日時、場所および議題等を二日前までに告示しなければならない(第二六条)と定められていたから、永井委員長またはその職務代行者たる大野事務局長としては、前記請求に応じて中央委員会の召集手続を進めなければならなかつたのであるが、一部に中執の解任(専従を解いて職場復帰させること。)と中執代行者選任のための臨時大会開催を決定することが目的であるという情報が流れていたところから、永井委員長および大野事務局長はいずれも右中央委員会の召集請求を拒否した。

しかし、同月二四日午前九時五〇分中央委員四三名(二名欠席)および小林、吉田、宮崎、松井の四中執らは召集権者の召集のないまま荻窪工場に参集し、西野中央委員を議長として「中央委員会」と称する会合を開催し、前記仮処分申請の件については中央委員会は全く関知しない旨を、鈴木中執の件については、大会決議違反で関係者全員を統制委員会に付託する旨をそれぞれ決議した。その後で、石岡中央委員が、中執を解任し職場に復帰させるための大会の開催を緊急動議として提案し、ついで、広島中央委員が、解任後中執選挙を行うため、人選は議長一任で、中央委員の中から各分会二名程度の中執代行者を置くことを、橋本中央委員が右の結果欠員となる中央委員の代行者を置くことをそれぞれ追加動議として提案し、三提案とも賛成四一、棄権二で可決され、石岡中央委員の提案で、大会の日程を二月二八日午後一時三〇分から村山工場第二食堂で開催することを決定した。そして、同月二五日中央委員会名で右大会開催の告示がなされた。

9  支部組合規約によると、大会は最高決議機関であつて、役員、統制委員長および大会代議員(中央委員および選挙規定により各係を選出区とし、原則として組合員二〇名に一名の割合で選出される代議員)で構成され(第一七条、第一八条)、毎年九月に中央執行委員長が定期大会を召集するほか、中央執行委員会または中央委員会が必要と認めたとき、代議員の三分の一以上の請求があつたときには臨時に召集しなければならず(第一九条)、委員長は、緊急の場合を除いて開催の日時、場所、議題等を五日前に全組合員に告示しなければならない(第二〇条)ものと定められていた。そこで、一一名の中執らは、同月二六日全員出席のうえ中央執行委員会を開き、二四日の「中央委員会」、二八日開催予定の「臨時大会」はいずれも手続上規約違反で無効である旨の態度決定をしたいとの委員長提案を賛成六、反対四の多数で可決し、会社に対し「臨時大会」のための便宜供与をしないよう申し入れるとともに、統制委員長に対し実情を調査してしかるべき処置をとるよう申し入れた。

しかし、同月二八日代議員三五〇名が出席して「臨時大会」が開催され、中執の職場復帰に関する件を石岡中央委員、執行部代行者選出の件を広島中央委員、中央委員代行者選出の件を橋本中央委員がそれぞれ提案説明を行ない、一括質疑の末、右三件とも賛成三四九、反対一で可決され、ついで議長団から六名の執行部代行者が指名された。

10  その後右執行部代行者の下において、役員選挙のため同年三月一八日発足した中央選挙管理委員会は、中執選挙および中央委員その他の役員の補充選挙の日程を決定してそれぞれ公示し、公示どおり選挙が行なわれた(この選挙においては、後記「全金プリンス自工支部組織強化確立臨時全員大会」に参加した者のうち千葉年ほか一〇名が中執に、宇佐美穫ほか三名が中央委員にそれぞれ立候補し、支部組合の中執である永井、大野、尾崎、白川、鈴木、本木の六名とほかに三名を除いては全員投票している。)。その結果永瀬忠男ほか一〇名が中執に当選し、ついで、同月三〇日に開催された「臨時組合大会」において執行部三役(執行委員長、事務局長、財務局長)の選出、その他の役員の任命を行なうとともに全金からの脱退およびそれに伴う規約、規定の改正(組合の名称を「プリンス自動車工業労働組合」と変更するばかりでなく、議決機関として、総会、大会、代議員会を設け、執行機関としては、常任委員会およびこれを補佐する執行委員会、業務組織および各種専門委員会、職場組織を置き、役員の種類を組合長、副組合長、書記長等を含む常任委員、執行委員会議長、副議長を含む執行委員、大会代議員、代議員とするなど、特に組合の組織面において大巾な変更をしている。)について投票総数三七六のうち賛成三七三で決議した。そして、同年四月二日右二点について組合員全員投票が行なわれたが(後記「全金プリンス自工支部組織強化確立臨時全員大会」に参加した者のうち、前記支部組合の中執六名とほかに八名が棄権したほかは全員この投票に参加している。)、投票総数七、三七四票のうち前者については六、五七五票、後者については六、五六〇票が賛成という結果であつた。その後、同年八月一日プリンスが日産と合併するとともに、「プリンス自動車工業労働組合」は、その名称を「日産自動車プリンス部門労働組合」と改めた。この組合が被告組合である。

11  支部組合は、前記のとおりプリンスの従業員であつて全金に所属する組合員をもつて組織する労働組合であるが、全金は、その綱領、規約に賛同する金属機械産業の個々の労働者によつて構成される個人加盟の単一組合であり(全金規約第二条)、中央本部、地方本部、支部の組織構成をもち(同第一〇条)、支部は工場、事業所もしくは地域に支部規約規準によつて組織され(同第一一条、第一三条)、機関を設け、全金の諸決議に従い、機関の指示に従つて所属組合員の指導と統制を行なうもの(同第一二条)と定められていた。また、支部組合は、支部規約基準案に則りながら独自の支部組合規約を設け、これを法人とし(第四条)、綱領、決議の実現を期するとともに組合員の団結を強め、労働条件の維持改善、経済的社会的地位の向上をはかることを目的とし(第五条)、大会、中央委員会、中央執行委員会の三つの機関を有し(第一六条)、それぞれの性格、構成、召集権者および召集手続などについて詳細に規定していた(大会、中央委員会の規定の内容については既にみたとおりである。)。

支部組合の中執のうち前記同年二月二四日の「中央委員会」に出席した四名を除く永井委員長ほか五名は、右「中央委員会」にはじまる同月二八日の「臨時組合大会」、同年三月二四日の「役員選挙」、同月三〇日の「臨時組合大会」、同年四月二日の「組合員全員投票」など一連の手続は、すべて支部組合の規約にもとづかないものであつて、支部組合とは別個に中央委員を中心とする第二組合が発生し、この第二組合の手続として行なわれたものとの見解のもとに、支部組合の正常な組織運営を回復する方策として、同年四月三日「全金プリンス自工支部組織強化確立準備大会」なる会合を開き、全金プリンス自工支部組合員確認申請書により個々の組合員の意思にもとづき、右組合員資格の確認を行ない、そのうえで「全金プリンス自工支部組織強化確立臨時全員大会」を開催することを決定し、同年四月一〇日確認申請を得た一五二名の組合員を召集して組織強化確立臨時全員大会を開催した。

右大会においては、総投票数一一九の全員一致で「一、プリンスと日産の合併問題に対処する態度は支部組合の第四回定期大会(昭和四〇年一〇月二一日)で承認された運動方針が正しいものであることを確認する。二、同年一二月二二日の中執不信任決議は無効であることを宣言する。三、昭和四一年二月二八日、同年三月三〇日のいわゆる大会は、支部組合の適法な機関運営ではなく、第二組合のそれであつて、プリンス自工支部とはかかわりのないものであることを宣言する。」旨の組織強化確立に関する決議を行ない、当面の活動方針として、(1)運動の基調、(2)暫定運営規定、(3)暫定予算、(4)組織強化行動方針などについて決定し、暫定運営規定にもとづき中央委員と会計監査を選出した。そして、支部組合名で、同年四月二三日会社に対し、一四三名の所属組合員の氏名を通告してその組合員の給料から徴収した組合費を従来どおり支部に納入するよう求める申入書を提出し、同時に団体交渉を申し入れたが、会社はプリンス自工支部の組合としての存在を否定して右申入れをすべて拒否し、この会社側の態度は、日産がプリンスを吸収合併した後においても同様であつた。

以上のとおり認められ、証人石岡勝喜の証言および原告代表者大野秀雄の供述中右認定に牴触する部分は前掲の各証拠に照らして採用し難く、他に右認定を覆えすに足りる的確な証拠はない。

右認定の事実によると、昭和四一年二月二四日開催された「中央委員会」は、支部組合規約所定の召集権者である中央執行委員長または事務局長の召集によらない集会であつて規約上正規の中央委員会とは認め難いものである。もつとも、永井委員長および大野事務局長が中央委員の三分の一以上の者から中央委員会の召集請求を受けたにもかかわらずこれを拒否したことは、かかる場合臨時中央委員会の召集を義務づけている規約に違反した措置といわざるを得ないけれども(原告は、規約上根拠のない執行部代行選任のための大会開催を決定することを目的とする召集請求であつたから、永井委員長らがこれを拒否したことは正当である旨主張するが、右前提事実が認められないことは前記のとおりである。)、この一事によつて、召集権者の召集によらず中央委員が参集して開いた会合を当然に適法、有効なものと解することはできない。けだし、召集を請求した中央委員としては、民法第四一四条第二項但書を準用して中央執行委員長に対し中央委員会の召集を命ずる本案または仮処分の裁判を得たうえ、これにもとずいて中央委員会を召集することが法律上可能であるし、また、臨時大会の開催が究極の目的であるならば、代議員の三分の一以上の意見を糾合して直接執行委員長に対し大会の開催請求をする手続もあつたのであり、前認定のところによれば、このような方途に出る余裕がないほど緊急の状態が発生したとは到底認め難く、また、中央委員会の構成員全員が出席したものでもないからである。

そして、右中央委員会の翌日には、規約上次級決議機関であつてなんら執行権限を有しない中央委員会が予め中央執行委員長に召集請求をすることもなく、いきなり自ら「臨時大会」召集の挙に出たものであつて、これより前昭和四〇年一二月二二日の臨時大会において、中執全員が不信任され(挙手採決の方法による不信任決議であるから無効であるとの原告の主張は、前認定の事実に照らして採用できない。)、爾後管理中執としてすべてのことについて中央委員会の事前の確認をとることが大会確認事項として決議された経緯があつたとしても、中央執行委員会もしくは中央執行委員長その他の中執の執行権限が全面的に剥奪せられたわけでないことは、総辞職の場合に後任役員選出までの間旧執行部に業務執行の権限と義務を認めた規約の規定および前記決議の趣旨からいつて明らかであり、中央委員の多数が、永井委員長以下の中執に執行業務の処理能力がないとしてその退陣を求めていたのならば、元来中執が総辞職の意向を申し出た段階でこれを受け入れるべきものであるのみならず、不信任された中執らが中央委員会に対し、速かに中執の選挙を行なうべきであるとの意見を再三表明したにもかかわらず、中央委員会においてこれを無視していた経過をも併せ考えると、右「臨時大会」は、召集権のない者が所定の手続によらずに召集した大会として、支部組合の規約上の意味における大会とは認め難いものといわざるを得ない。もとより、右規約上の大会召集に関する諸規定は、支部組合の最高の決議機関として組合の政策、運営に関する基本方針を決定すべき大会に全組合員の意思をできる限り忠実に反映させるため、大会構成員たる全代議員に出席と準備の機会を与えようとする趣旨に出たものと解せられるから、全組合員または少くとも全代議員がその利益を放棄して大会を開くことに同意したような場合は有効な大会の成立を認める余地がないではないが、右「臨時大会」には、組合員全員はもちろん代議員全員が出席していないことは明らかであつて、この点でも有効視し得ないものといわなければならない。

このように昭和四一年二月二四日の「中央委員会」決定にもとづく同月二八日の「臨時組合大会」が支部組合の大会と認められない以上、そこにおいてなされた永井委員長をはじめとする中執の職場復帰(解任)ならびに執行部代行者選出に関する決議は、支部組合大会の決議としての効力を有しないものであるから、右決議が有効に成立したことを前提とし、これに引き続いて執行部代行者の手で実施された同年三月二四日の「役員選挙」ならびに同月三〇日の「臨時組合大会」およびそこでの全金脱退、規約変更の各決議、同年四月二日の「組合員全員投票」などについても、支部組合の正規の組合運営としては到底認め難いものである。しかも、これら一連の手続を行なつた組織集団(被告組合に名称を変更する前の「プリンス自動車工業労働組合」)は、全金からの脱退決議(支部組合の決議としての効果をもち得ないものであることは前記のとおり。)を行なつたことに端的に現われているように、支部組合とはその思想的立場、目的、綱領等を本質的に異にし、規約も重要な部分において差異が見られるのであつて、支部組合とは別個の存在を有し、互に別の活動をするにいたつたものというべきであり、支部組合の構成員であつた組合員の大多数が右の一連の手続に参加し、その結果として支部組合から離脱し、支部組合の構成員が著しく減少したことは否定できないところであるけれども、単一組合たる全金の下部組織としての性格をも帯有する支部組合に残留する者が存在する限り、支部組合は雲散霧消するわけではなく、組合員数の多寡のみによつて右「プリンス自動車工業労働組合」が支部組合と同一性を有する組合であると認めることはできない。かえつて、支部組合に残留する者は、昭和四一年四月三日に「全金プリンス支部組織強化確立準備大会」を、同月一〇日に「組織強化確立臨時全員大会」を開催して組織の再建をはかるとともに、支部組合の第四回定期大会で承認された運動方針を承継することを確認し、会社に対して所属組合員一四三名の氏名を明らかにして給料から徴収した組合費の納入を要求したり団体交渉を申し入れるなど組合活動を続けているのであつて、この支部組合残留者をもつて組織される原告組合が支部組合としての同一性を保持しているものといわなければならない。

三  以上の次第で、本件預金債権は、支部組合と同一性を有する原告組合に帰属するものというべきであり、被告組合に対して右預金債権を有することの確認を、被告金庫に対して右預金の支払をそれぞれ求める原告の本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用し、仮執行の宣言は不必要と認めてこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判官 田宮重男 島田禮介 戸田初雄)

(別紙省略)

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